鍼灸を受けている最中、思いがけず涙がこぼれた――
そんな経験をしたことがある方は、意外と多いのではないでしょうか。
痛みを感じたわけでも、悲しい出来事を思い出したわけでもない。
それなのに、ふと涙が流れてしまう。
この現象は、単なる“気のせい”ではありません。
実は、体の緊張がゆるみ、心の奥に閉じ込めていた感情が解放されたサインなのです。
今回は、「なぜ鍼灸で涙が出るのか」「その涙にどんな意味があるのか」を、
東洋医学と心理学の両方の視点からやさしく紐解いていきます。
涙は「体が整う」サイン
鍼灸を受けているときに涙が出るのは、体が“緩んだ証拠”です。
東洋医学では、体と心はひとつの流れでつながっており、
気(エネルギー)の巡りが滞ると、感情も体調も不安定になると考えます。
特に、ストレスや我慢を重ねると「肝(かん)」の気が詰まり、
胸がつかえたり、息苦しさを感じたりすることがあります。
鍼灸によって経絡(エネルギーライン)が整うと、
その滞りが解け、体の奥にあった感情エネルギーが一気に流れ出します。
そのとき、涙として表面化することがあるのです。
涙は、体が「もう我慢しなくていい」と伝えるサイン。
鍼灸が、心のブレーキをやさしく外してくれているのです。
東洋医学でみる「涙と五臓の関係」
東洋医学では、感情と臓器は深く関係していると考えられています。
| 感情 | 関係する臓 | 代表的な働き |
| 喜び | 心(しん) | 血と神(こころ)を司る |
| 怒り | 肝(かん) | 気の巡りをコントロール |
| 悲しみ・憂い | 肺(はい) | 呼吸と免疫を司る |
| 思い悩み | 脾(ひ) | 消化吸収・思考 |
| 恐れ | 腎(じん) | 生命力・安定感 |
涙は「心(しん)」や「肺(はい)」と関わりが深いとされ、
心が動くと自然に流れるものです。
鍼灸で経絡が整うと、これらの臓のバランスが取れ、
抑えていた悲しみや不安が解放されやすくなります。
つまり、涙は“浄化”であり、体が回復へ向かうプロセスなのです。
鍼灸で感情が動く仕組み
鍼の刺激は、筋肉や皮膚だけでなく、
神経系やホルモン分泌、脳の働きにも影響を与えます。
特に関係しているのが、自律神経と扁桃体(へんとうたい)です。
鍼の刺激によって副交感神経が優位になると、
体は「安心・安全モード」に切り替わります。
その状態では、脳の感情中枢である扁桃体がゆるみ、
これまで抑圧していた感情が自然に表面化してくるのです。
心理学では、これを感情リリースと呼びます。
体の緊張が解けると、心も“鎧”を脱ぐことができる――
それが、鍼灸で涙が出る一番の理由なのです。
涙が出るとき、体の中では何が起きているのか
涙には3つの種類があります。
- 基礎分泌の涙:目を潤すためのもの
- 反射の涙:刺激や痛みで出るもの
- 感情の涙:心の動きによって出るもの
鍼灸で出るのは3つ目の“感情の涙”。
この涙には、ストレスホルモン(アドレナリンやコルチゾール)が多く含まれており、
流すことで体内の緊張物質が排出されます。
つまり、涙を流すことで、
体の中で起きていたストレス反応がリセットされるのです。
涙は、心のデトックスであり、
生理的にも「回復のスイッチ」を押す行為なのです。
「涙のあと」に起こる変化
涙を流したあと、こんな変化を感じる方が多くいます。
- 呼吸が深くなる
- 胸の圧迫感が消える
- 頭が軽くなる
- 不思議と前向きな気持ちになる
これは、感情とともに“滞っていた気”が流れた証拠。
心身がフラットな状態に戻ったサインでもあります。
東洋医学では、この状態を「気の再循環」と呼び、
心と体の両方が整う重要なプロセスと捉えています。
涙が出やすい人・出にくい人
鍼灸で涙が出るかどうかは、個人差があります。
涙が出たから良い、出ないから悪いというものではありません。
ただ、傾向として――
- 感受性が高い
- 我慢しやすい
- 過去のストレスを抱えやすい
こうした人は、施術で涙が出やすい傾向にあります。
一方、日常的に涙を我慢している人は、
最初のうちは何も感じないこともあります。
それでも、施術を重ねていくうちに、
少しずつ心の奥の緊張がほどけ、自然に“涙の通り道”が開いていくのです。
施術後に大切なのは“涙を否定しないこと”
施術中に涙が出たとき、恥ずかしいと感じたり、
「弱い自分を見せてしまった」と思う方もいます。
でも、それは心が回復している証。
涙を我慢するよりも、安心して流す方が、治癒の力が高まります。
鍼灸院では、そうした感情の解放も“自然な反応”として受け止めます。
泣いても大丈夫。
むしろ、それが本来の自分に戻るための大切なプロセスです。
涙が出たあとにおすすめの過ごし方
涙を流したあとは、体も心も少しデリケートな状態です。
以下のような時間を取ることで、回復がより深まります。
- 温かいお茶を飲む
- 静かな音楽を聴く
- 深呼吸をして、体の感覚を感じる
- 夜は早めに休む
涙のあとにやってくる“静けさ”は、心が再生している証。
その時間を焦らず味わうことで、
感情の整理が自然と進んでいきます。
鍼灸師が見る「涙」の意味
鍼灸師にとって、患者さんの涙は治療の一部です。
ツボを通して体のバランスが整っていくと、
感情や思考までも流れが変わっていきます。
それは、目に見えないけれど確かな変化。
涙が出た瞬間、「本来の呼吸が戻ってきた」と感じる人も多いのです。
鍼灸は、気を整えるだけでなく、
感情を整え、“生きる力”を呼び覚ます療法です。
まとめ
鍼灸で涙が出るのは、
「心と体が安全な状態に戻った」サイン。
涙は、
- 滞っていた感情の解放
- 自律神経の調整
- ストレスホルモンの排出
- 気の巡りの回復
といったプロセスを通して、
心身のバランスを“整えるための自然な反応”なのです。
終わりに
涙は、弱さではなく「整う力」。
それは、心がもう一度呼吸を取り戻す瞬間です。
鍼灸の刺激によって、
体の奥にあった感情がやさしく動き出すとき、
人はほんの少し、軽くなります。
涙は、癒しのはじまり。
皆さんも、もし施術中に涙が出たら、
その涙を“自分の心が整っていく証”として、やさしく受け止めてみてください。